コア東京2015.1月号 浅草 神谷バー


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「浅草 神谷バー」

 上京するまでずっと兵庫県に住んでいたため、キラキラした新宿や渋谷への憧れがとても強かった一方、浅草は精神的にもとても遠かった。しかし「電気ブラン」という不思議な響きの言葉がどこからかやってきて、ずっと頭から離れず、受験で上京した時か、学生になってから一人旅でおとずれた時か忘れてしまったが、おみやげとして浅草まで「電気ブランを」買いに行ったことがある。しかしなぜか神谷バーではなく、少し奥の「カイダ酒店」という小さな酒屋さんで買ったことを覚えている。昭和六十年代、今は脇に売店があるが、当時はなかったのかもしれない。ましてや二十歳前後の青二才がバーに入る勇気もなく、さらにお粗末なことに建築史を学ぶ事を志していたにもかかわらず、神谷バーの建築自体についての記憶がない……。
 大正10年の竣工というから、その後の関東大震災や大空襲にも耐え忍んできた民間の商業建築。決してアカデミックなデザインではないが庶民的な大正モダンな空気に満ちあふれ、最近もとの姿に戻った東武浅草駅(昭和6年竣工)とともに浅草の“顔”をつくりだしている。
 あれから30年、今では常連さんのまねしてビールと電気ブランを同時に注文する事などを覚え、大正モダンの懐にいだかれながら電気ブランをちびちびとやり、時の流れと戯れている……。
by ocm2000 | 2015-01-18 13:05 | □建築イラスト
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